AI時代の羅針盤:PACEフレームワークと課題設定力の重要性

GLISが提唱するPACEフレームワークは、AI時代のプロジェクト推進を4つのフェーズで整理したものです。P(Purpose)→ A(Articulate)→ C(Chart)→ E(Evaluate)。本記事はその起点、P(Purpose)=課題設定について書きます。
この連載では、AI時代に必要な力について書いてきました。「言語化」「確認」「可視化」。いずれも重要なスキルですが、これらは全て「解くべき課題が正しく定まっている」ことが前提です。
今回はその前提そのもの、つまり課題設定力について書きます。
AIの進化により、私たちは圧倒的な「解く力」を手に入れました。企画書も、分析レポートも、コードも、デザインも、数分で形になります。しかしその力は、的が正しく定まっていてこそ意味がある。的外れな課題にAIを投入すれば、的外れな成果が最速で積み上がるだけです。
PACEの後続フェーズ、すなわち言語化(Articulate)、可視化(Chart)、確認(Evaluate)のすべては、このPurposeの精度に依存します。起点がズレていれば、どれだけ丁寧に言語化し、どれだけ精緻にフローを描いても、成果にはつながりません。
AIが「解く力」を民主化:なぜ「課題設定力」が競争優位を生むのか
AIによる「解く力」の変革:専門家依存からの脱却
かつて、高度な分析や制作は専門家の領域でした。市場調査には数百万円、映像制作には数ヶ月、データ分析には専門チームが必要でした。
AIはこの障壁を一気に下げました。今や中小企業でも、個人でも、AIを使えば一定水準のアウトプットを出せます。「解く力」は民主化されたのです。
競争優位の源泉は「何を解くか」:安宅和人氏「イシューからはじめよ」からの示唆

全員が同じ「解く力」を持ったとき、競争優位はどこに生まれるか。答えは明確です。何を解くかを決める力、すなわち課題設定力です。
安宅和人氏の「イシューからはじめよ」で語られている核心がまさにこれです。バリューのある仕事とは、「解の質」×「イシュー度」で決まる。いくら解の質を上げても、イシュー度(解くべき課題としての価値)が低ければ、仕事のバリューは上がらない。
AI時代は、解の質をAIが担保してくれます。だからこそ、人間が担うべき「イシュー度を見極める力」の重要性が相対的に跳ね上がっているのです。
AI活用で失敗しない!的外れな課題設定がもたらす3つの損失
GLISがクライアントの業務改善を支援する中で、課題設定の段階で的を外しているケースを数多く見てきました。その損失は想像以上に大きい。
損失1. 時間とコストの無駄遣い:AIによる高速な的外れアウトプット
的外れな課題に対して、AIが高速でアウトプットを出し続ける。一見、仕事が回っているように見えます。レポートは量産され、施策は次々と実行される。しかし成果指標は動かない。
あるクライアントでは「SNSの投稿頻度を上げる」という課題にAIを投入し、月30本の投稿を自動生成していました。しかし本質的な課題は投稿頻度ではなく、ターゲット設定のズレでした。30本の的外れな投稿より、3本の的を射た投稿の方がはるかに成果を出します。
これはPACEで言えば、Purpose(P)を固めずにArticulate(A)以降に進んでしまった典型例です。
損失2. 組織の成長を阻む誤った学習:課題設定ミスが招く悪循環
間違った課題に取り組んでいる期間、組織は間違った方向に学習し続けます。「この方法ではうまくいかない」という学びすら、課題設定が正しくなければ誤った教訓になります。
損失3. 「AIは使えない」の誤解:課題設定ミスが招くAIへの不信
的外れな課題にAIを使った結果、「AIは使えない」という結論に至るケースがあります。AIの問題ではなく、課題設定の問題なのに、ツールのせいにされてしまう。これはAI活用の機会損失として最も深刻です。
AI時代に求められる「課題設定力」の本質:3つの選定基準とスキルとしての側面
最適な課題を見極める3基準:インパクト・実行可能性・緊急度と重要度

すべての課題が解く価値があるわけではありません。GLISでは課題を評価する際に、3つの基準を使っています。
基準1. インパクト — 解いたとき、どれくらいの変化が生まれるか
その課題を解決することで、売上、コスト、時間、顧客満足度にどの程度のインパクトがあるかを見積もります。インパクトが小さい課題は、いくらAIで効率的に解けても優先度が低い。
基準2. 実行可能性 — 今のリソースで解けるか
正しい課題でも、現時点で解く手段がなければ着手すべきではありません。AI、人材、データ、予算の観点で実行可能性を評価します。
基準3. 緊急度と重要度 — 今、解くべきか
緊急だが重要でない課題に飛びつくのは、最もよくある的外れです。重要だが緊急でない課題にこそ、AIのリソースを計画的に投入すべきです。
AIには代替できない人間固有のスキル:課題設定力を磨く重要性
課題設定力は生まれ持った才能ではありません。訓練で身につくスキルです。
ただし、このスキルは非認知能力に近い性質を持っています。数値化しにくく、マニュアル化しにくい。現場の声を聞き、データの裏側を読み、ステークホルダーの本音を汲み取る。そうした総合的な判断力が求められます。
だからこそ、AIには代替できない。AIは与えられた課題を解くことには長けていますが、「そもそも何が課題なのか」を現場から汲み取る力は持っていません。PACEフレームワークの中で、Purposeだけが「人間にしか担えない工程」と言っても過言ではないのは、このためです。
GLIS流!AI BizOpsを成功に導く課題設定の4ステッププロセス
GLISのAI BizOps事業では、以下のプロセスで課題設定を行っています。これはPACEフレームワークのPurposeフェーズを具体化したものです。
ステップ1. 現状把握の第一歩:業務の棚卸しで課題候補を洗い出す
まず現状のプロセスを全て書き出します。PACEの3番目のフェーズであるChart(C)と重なる部分ですが、Purposeフェーズでは「精緻なフロー図」を作ることが目的ではなく、課題の候補を洗い出すための粗い棚卸しです。
ステップ2. 成果を最大化する鍵:ボトルネックの特定と優先順位付け
可視化されたプロセスの中で、最も時間がかかっている工程、最も手戻りが多い工程、最も属人化している工程を特定します。
ステップ3. GLISの評価軸:インパクトと実行可能性で課題を絞り込む
特定されたボトルネックを、先述の3基準で評価します。全てを一度に解こうとせず、最もバリューの高い1〜2つに絞ります。
ステップ4. 明確な目標設定:測定可能な課題言語化でAIを最適活用
選定した課題を、チーム全員が同じ理解を持てるレベルまで言語化します。「業務を効率化する」ではなく「月次レポート作成の所要時間を現在の8時間から2時間以下にする」というように、測定可能な形で定義します。
ここで行う言語化は、次のフェーズであるArticulate(A)への橋渡しとなります。Purposeフェーズでの言語化は「何を解くか」の定義であり、Articulateフェーズでの言語化は「それをどう伝え、どう実行するか」の設計です。
このプロセスを経て初めて、「どのAIツールを使うか」「どう実装するか」という話に入ります。
今日から実践!AI時代の課題設定力を高める3つの具体策
具体策1. 本質を見抜く思考法:「Why」を5回繰り返して真の課題へ
表面的な課題の裏に、本質的な課題が隠れています。「なぜこの作業に時間がかかるのか」「なぜこの手戻りが発生するのか」を繰り返し掘り下げることで、真のイシューにたどり着けます。
具体策2. 机上だけでは不十分:現場に出て「生の声」から課題を汲み取る
データだけでは見えない課題があります。実際に業務を行っている人の隣に座り、何に困っているかを観察する。言葉にされていない不満や非効率を汲み取る力は、現場でしか養えません。
具体策3. 選択と集中:AI時代に「解かない」判断が成果を最大化する理由
課題設定力の本質は、解くべき課題を選ぶことだけではありません。「これは今、解くべきではない」と判断する力も含まれます。リソースは有限です。的外れな課題を捨てる勇気が、的を射た課題への集中を生みます。
AI時代のビジネス成功は「課題設定力」から:PACEフレームワークの核心
PACEフレームワーク全体を、プロジェクトの時系列で整理します。
- P(Purpose)課題設定 — 解くべき的を定める(本記事)
- A(Articulate)言語化 — 定めた的をチームとAIに伝える形にする
- C(Chart)可視化 — プロセス全体をフロー図に落とし込む
- E(Evaluate)確認 — アウトプットの質を担保し、意思決定する
AIは2〜4のすべてを加速してくれます。しかし1だけは、人間が担うしかない。そして1がズレていれば、2〜4をいくら完璧にやっても、的外れな成果が積み上がるだけです。
AI時代に最も差がつくスキルは、プログラミングでもプロンプト設計でもありません。「今、何を解くべきか」を正しく定められる力です。
あなたの組織では、AIに「何を解かせるか」は明確に定まっていますか。
PACEフレームワークの全体像については別記事で解説しています。次のステップとして、Purpose(P)で定めた課題を「伝わる形」にするArticulate(A)の記事もあわせてご覧ください。