AI時代の業務プロセス設計に必要な力:PACEフレームワークの概要と重要性
この連載では、AI時代の仕事に必要な4つの力について個別に書いてきました。「課題設定力」「言語化」「可視化」「確認」。それぞれが独立したスキルであり、それぞれに深い意味がある。
しかし現場で本当に必要なのは、この4つを一連のサイクルとして回す仕組みです。
今回は、GLISが自社のAI運用とクライアント支援の実践から体系化した、業務プロセス設計のフレームワーク「PACE」を提案します。
AI時代に特化!業務プロセス設計フレームワーク「PACE」の4ステップとは?

PACEは、AI時代の業務プロセスを設計・改善するための4ステップのフレームワークです。
- Purpose — 業務プロセスの目的を策定する
- Articulate — 業務を言語化する
- Chart — 業務プロセスの流れを可視化する
- Evaluate — 業務を確認・評価する
PDCAサイクルが「計画→実行→確認→改善」の汎用的な改善サイクルであるのに対し、PACEは「AIを前提とした業務プロセスの設計・再設計」に特化したフレームワークです。
なぜPACEという名前なのか。Paceには「速度」「歩調」という意味があります。GLISのミッション「Accelerate Any Project(すべてのプロジェクトを加速させる)」と直結する概念です。正しいPACEでプロセスを設計すれば、プロジェクトは自然と加速します。
PACEステップ1: Purpose - AI時代の業務目的を明確に策定する方法
AI時代の業務プロセス目的策定が不可欠な理由:Purposeの重要性
PACEの起点は目的の策定です。これは前回の記事で「課題設定力」として詳しく書いた内容と重なります。詳しくはAI時代の「課題設定力」で解説しています。
多くの組織で起きている問題は、目的が曖昧なまま業務が走っていることです。「なんとなく続いている会議」「誰も読まない週次レポート」「効果測定されていないSNS投稿」。目的が不明確な業務にAIを入れても、的外れなアウトプットが高速で量産されるだけです。
AI時代の業務目的を特定する3つの質問:課題とゴール設定のポイント
GLISでは、業務プロセスの目的を策定する際に、3つの問いを使います。
問い1. この業務は、誰のどんな課題を解決しているか
業務の受益者と、その人が抱える課題を明確にします。「上司に報告するため」は目的ではありません。「経営判断に必要なデータを、意思決定者に届けるため」が目的です。
問い2. この業務がなくなったら、何が困るか
逆説的ですが、なくなっても誰も困らない業務は、そもそも不要です。AI化を検討する前に、廃止を検討すべきです。
問い3. この業務のゴールは、何で測定できるか
定量的に測定できないゴールは、改善も評価もできません。「顧客満足度の向上」ではなく「NPS5ポイント改善」のように、数値で定義します。
PACEステップ2: Articulate - AI活用を見据えた業務の言語化と形式知化
業務プロセスの暗黙知を形式知化する方法:再現性向上とAI連携の鍵
目的が定まったら、その業務に関わるすべての要素を言語化します。これは「棚卸し」とも呼ばれる工程です。この点については業務の言語化と形式知化も参考になります。
言語化すべき対象は3つあります。
対象1. タスクの一覧と手順
何を、どの順番で、どのように行っているかを書き出します。ベテラン社員の頭の中にしかない手順を、誰でも(AIでも)再現できる形にします。
対象2. 判断基準
各タスクで何を基準に判断しているかを明文化します。「経験で判断している」を分解すると、実は「過去の類似案件のデータを参照し、3つの条件に照らして判断している」のように構造化できることがほとんどです。
対象3. 例外処理
通常フローから外れるケースと、その対応方法を記録します。例外処理こそ属人化しやすい部分であり、言語化の価値が最も高い領域です。
AI連携を最適化する言語化の粒度と具体的な基準・チェックリスト
GLISでは「新入社員が読んで再現できるレベル」を言語化の基準にしています。この基準を満たす言語化ができれば、AIへの指示設計もスムーズに進みます。なぜなら、AIに求める理解度は新入社員と同程度だからです。
PACEステップ3: Chart - 業務プロセス可視化でボトルネックとAIの役割を特定
プロセスマップ作成手順:言語化された業務をフロー図で可視化する
Articulateで書き出した個々のタスクを、時系列のフロー図(プロセスマップ)に整理します。言語化がパーツの製造なら、Chartはそのパーツを組み立てる工程です。
業務プロセス可視化(Chart)で発見する3つの課題とAI連携成功のコツ

1. ボトルネック
フロー図にすると、特定の工程に時間が集中していることが一目で分かります。GLISの自社YouTube運用では、Chart の段階で「企画承認の待ち時間」がリードタイム全体の40%を占めていることが発覚しました。
2. 重複と無駄
複数の部門が同じデータを別々に集計している、承認フローが3段階あるが2段階で十分、といった構造的な無駄が見えます。
3. 人間とAIの仕分けポイント
各工程を「人間が必須」「AIで自動化可能」「人間×AI協業」に分類します。この仕分けがAI導入の設計図になります。
業務プロセス可視化に最適なツールの選び方と共有を成功させるポイント
Notion、Miro、Figma、スプレッドシート、ホワイトボード。ツールは何でも構いません。重要なのはチーム全員が同じ絵を見られる状態にすることです。
PACEステップ4: Evaluate - 業務プロセスとAIアウトプットを評価し改善サイクルへ
Evaluateの役割:AI時代におけるPACEサイクルとPDCAへの効果的なフィードバック
Evaluateは2つの確認を含みます。
確認1. アウトプットの品質確認
AIが生成した成果物が、Purposeで定めた目的に合致しているかを確認します。品質基準はArticulateの段階で言語化されているはずなので、その基準に照らして判断します。
確認2. プロセス自体の評価
業務プロセスそのものが効率的に機能しているかを評価します。「このAIエージェントの精度は十分か」「この承認フローは必要か」「ボトルネックは解消されたか」。
評価結果をPurposeへフィードバック:PACEサイクルを継続・進化させる重要性
ここが最も重要なポイントです。Evaluateで得られた知見は、次のPACEサイクルのPurposeにフィードバックされます。「当初の目的は達成されたか。されていなければ、目的自体を見直すべきか」。この循環こそが、PACEをフレームワークたらしめる核心です。
【実践事例】GLISのnote自動生成パイプラインに学ぶPACEフレームワーク活用術
GLISのnote自動生成パイプラインにおけるPACEフレームワークの適用事例
GLISが11のAIエージェントでnote記事を自動生成しているパイプラインを、PACEで分解します。
P(Purpose) 月間20本の質の高いnote記事を、1本あたり2時間以内で公開する。目的は自社の専門性の発信とSEO資産の蓄積。
A(Articulate) 記事制作に関わる全タスクを言語化。テーマ選定の基準、構成テンプレート、トーン&マナーガイドライン、品質チェックリストを文書化。
C(Chart) 11エージェントの役割と処理順序をフロー図化。各フェーズに品質ゲートを配置。人間の介入ポイント(テーマ最終承認、公開前レビュー)を明示。
E(Evaluate) 週次で記事のPV、読了率、SNSシェア数を確認。月次でパイプライン全体の稼働率、エラー率、人間の介入頻度を評価。改善点をPurposeにフィードバック。
このサイクルを3ヶ月回した結果、1本あたりの制作時間は当初の20時間から1.5時間に短縮されました。
AI時代の業務改善フレームワーク徹底比較:PACEとPDCA、それぞれの役割とメリット

PACEはPDCAを否定するものではありません。PDCAの「上位レイヤー」に位置するフレームワークです。
| | PDCA | PACE | |---|---|---| | 対象 | 業務の実行と改善 | 業務プロセスの設計と再設計 | | 起点 | Plan(計画) | Purpose(目的策定) | | 焦点 | 実行の質を上げる | そもそもの構造を正す | | AI時代の位置付け | AIが高速で回す | 人間が設計し、AIに回させる |
PDCAは「決まったプロセスをいかに上手く回すか」のサイクル。PACEは「そのプロセス自体をいかに設計するか」のサイクルです。AI時代は、PDCAの回転速度はAIが担保してくれます。人間が注力すべきは、PACEによるプロセス設計の方です。
まとめ:AI時代の業務プロセス設計はPACEフレームワークで加速する
AI時代の業務プロセス設計フレームワーク「PACE」を提案しました。
- Purpose — 何のためにやるのかを定める
- Articulate — 業務を言語化し、棚卸しする
- Chart — プロセスを可視化し、AIと人間の役割を仕分ける
- Evaluate — アウトプットとプロセスを確認・評価し、次のサイクルに繋げる
このサイクルを回すことで、プロジェクトは正しい速度(Pace)で前に進みます。
AI導入を検討されている方、業務改善に取り組んでいるが成果が出ない方は、まずPACEの最初の「P」から始めてみてください。関連して、AI導入を成功させるための組織とプロセスの設計にはAI導入におけるBizOps戦略もご覧ください。 「この業務は、何のためにやっているのか」。この問いに答えられないなら、AIを入れる前にやるべきことがあります。