BtoBの動画マーケティングは、動画を作ること自体が目的ではありません。購買に関わる人たちが、営業に会う前に判断材料をそろえられるようにすることが、いちばんの役割です。
BtoBの購買では、担当者がひとりで決めることはほとんどありません。現場の担当者、上長、決裁者がそれぞれのタイミングで情報を集め、比べ、社内で説明します。動画は、その途中で何度も見返される資料のひとつです。
この記事では、BtoBで動画マーケティングを始めたい方、すでに作った動画を活かしきれていない方に向けて、全体の進め方を整理します。どの段階にどの動画を置くか、誰が何を決めるか、成果をどう測るかまでを順に見ていきましょう。
この記事でわかること
- BtoBの動画マーケティングの考え方 — 動画制作や動画広告との違い
- 購買プロセス別に置く動画の種類 — 認知・比較・商談・導入後
- 進め方の5ステップ — 目的、対象、置き場所、制作、測定
- 社内で止まりやすいところと対処
- 最初の1本に何を作るか
BtoBの動画マーケティングとは
動画マーケティングは、動画を使って見込み客との接点をつくり、検討を前に進める取り組みの全体を指します。動画制作はその中の一工程で、動画広告は配信手段のひとつです。
BtoBで特に意識したいのは、次の3点です。
- 見る人が複数いる — 現場の担当者が見つけた動画を、上長や決裁者が後から見ることがあります
- 検討期間が長い — 1回見て終わりではなく、比較や社内説明のたびに見返されます
- 営業と分かれていない — マーケティングで使う動画が、そのまま商談資料にもなります
つまりBtoBの動画は、広く届けるための広告素材であると同時に、営業がいない場面で説明を代わりに担う資料でもあります。この前提に立つと、作る動画の種類や長さの決め方が変わってきます。
市場の動き
電通の「2025年 日本の広告費」では、インターネット広告費が4兆459億円となり、総広告費に占める割合が50.2%と初めて過半数に達しました。同じく電通グループなどによる詳細分析では、ビデオ(動画)広告が1兆275億円となり、推定開始以降はじめて1兆円を超えています(前年比121.8%)。
広告費の数字は主にBtoCを含む全体の動きですが、見る側の習慣として、動画で情報を受け取ることが当たり前になっていることは読み取れます。
BtoBで動画が効く場面 — 営業に会う前の検討段階
ワンマーケティングの「BtoB購買プロセス白書2025」(企業の購買に関わるバイヤー600名が対象)では、営業担当者との初回面談の前に、85%の購買担当者が購買先の候補を絞り込んでいると報告されています。
営業が説明する前に、候補に残るかどうかがほぼ決まっているわけです。この段階で読まれるのは、Webサイト、比較記事、資料、そして動画です。
文章や資料と比べたとき、動画が得意とするのは次のような情報でしょう。
- 製品やサービスが実際に動いている様子
- 導入した企業の担当者が、自分の言葉で語る経緯
- 会社や担当チームの雰囲気、人柄
- 手順や操作のように、文字で説明すると長くなるもの
逆に、価格表や仕様の一覧のように、見比べるための情報は文書のほうが向いています。動画ですべてを伝えようとせず、動画で興味と納得をつくり、詳細は資料やページで確かめてもらうという分担を考えておくと、作る本数が絞れます。
購買プロセス別に置く動画の種類
BtoBの動画は、購買のどの段階で見られるかによって役割が変わります。代表的な置き方を段階別にまとめました。

認知 — 課題に気づいてもらう段階
- 向いている動画 — 業界の課題を解説する短い動画、SNS向けの縦型ショート動画、ウェビナーの切り抜き
- 置き場所 — YouTube、SNS、動画広告、展示会のブース
- 長さの目安 — 15秒から3分程度
ここでは製品の説明より、「この会社は自分たちの課題をわかっている」と感じてもらうことが目的です。
比較・検討 — 候補を絞る段階
- 向いている動画 — サービス紹介動画、導入事例動画、デモ動画
- 置き場所 — 自社サイトのサービスページ、導入事例ページ、資料ダウンロード後のメール
- 長さの目安 — 1分から5分程度
導入事例動画は、この段階でもっとも効きやすい動画のひとつです。同じ立場の担当者が語る言葉は、売り手の説明より信頼されやすいためです。導入事例動画の作り方は、導入事例動画の作り方を5ステップで解説で詳しく扱っています。
商談 — 社内で説明してもらう段階
- 向いている動画 — 商談前に送る説明動画、提案内容を補足する動画、経営者のメッセージ動画
- 置き場所 — 商談前後のメール、提案書の中のリンク
- 長さの目安 — 3分から10分程度
この段階の動画は、担当者が上長や決裁者に説明するときの材料になります。担当者が言葉で説明しきれない部分を、動画が代わりに伝えてくれます。経営者が語る動画の作り方は、経営者インタビュー動画で会社の信頼性を伝える方法を参考にしてください。
導入後 — 使いこなしてもらう段階
- 向いている動画 — 操作説明やオンボーディング動画、よくある質問への回答動画
- 置き場所 — ヘルプページ、顧客向けのメール、管理画面
- 長さの目安 — 1つの操作につき1分から3分程度
導入後の動画は、解約を防ぎ、紹介や追加導入につなげる役割を持ちます。見落とされがちですが、作った動画が長く使われやすい段階でもあります。
動画マーケティングの進め方 — 5つのステップ
ステップ1 目的を1つに絞る
最初に決めるのは「この動画で、見た人に何をしてほしいか」です。認知を広げたいのか、資料請求を増やしたいのか、商談の説明を短くしたいのかで、作る動画も置き場所も変わります。
1本の動画に複数の目的を持たせると、伝えたいことが増えて長くなり、結局どれも伝わりにくくなります。1本につき目的は1つを基本にしておくと、後の判断がぶれません。
ステップ2 見る人を具体的に決める
「BtoBの担当者」では範囲が広すぎるからです。業種、役職、どんな課題を抱えているか、どの段階で見るかまで具体的にします。
特にBtoBでは、最初に見る人と最終的に判断する人が違うことも珍しくありません。現場の担当者が見つけて、上長に共有するところまで想定しておくと、冒頭で何を伝えるべきかが決まります。
ステップ3 置き場所から逆算する
動画は、置き場所によって求められる長さや画面の向きが変わります。
- SNS — 縦型で、冒頭の数秒で興味を引く構成
- 自社サイト — 横型で、ページの内容を補う長さ
- 商談前のメール — 担当者が社内で転送しやすい長さと内容
- 展示会 — 音なしでも内容がわかるテロップ中心の構成
先に置き場所を決めてから撮影すると、同じ撮影素材から複数の動画を切り出すことも可能です。画面の向きの決め方は、動画の縦横比の選び方にまとめています。
ステップ4 制作の進め方を決める
制作は、全部を外注する、一部を外注する、すべて社内でつくる、の3通りが考えられます。目安として、会社の顔になる動画や導入事例のように一度つくって長く使う動画は外注、SNSのように数を出す動画は社内で、と分けると予算を配分しやすくなります。
外注する場合は、見積もりの内訳と、修正が何回まで含まれるかを最初に確認しておきましょう。見積書の見方は動画制作の見積もりの読み方で、納期を短くする工夫は動画制作の納期を短縮するポイントで解説しています。
ステップ5 公開前に測り方を決める
効果測定は、公開してから考えると指標がぶれます。ステップ1で決めた目的に合わせて、何を見れば成功かを公開前に決めておきましょう。詳しくは次の章で整理します。
社内で止まりやすいところと、その対処
動画マーケティングは、制作そのものより社内の調整で止まることが少なくありません。よくあるのは次の4つです。
目的が決まらないまま制作が始まる
「とりあえず会社紹介動画を」と始めると、関係者ごとに入れたい内容が増え、長くて焦点のない動画になりがちです。企画の段階で、ステップ1と2の内容を1枚にまとめ、関係者の合意を取ってから制作に入ると、後の差し戻しが減ります。
出演者が決まらない
社員や顧客に出演してもらう動画では、出演者探しで数週間止まることがあります。出演をお願いする理由と、公開範囲、退職や異動のときの扱いまで先に説明しておけば、承諾は得やすくなるはずです。社員の出演については社員インタビュー動画の出演者選びと、社員が出演する動画の肖像権と著作権で詳しく解説しています。
確認する人が多く、修正が終わらない
確認者が多いほど修正は増えます。誰が最終的に判断するのかを決め、確認の順番と回数を最初に決めておくと、修正の往復が減ります。絵コンテの段階で合意を取っておくことも効果的です。進め方は動画の修正回数を減らす絵コンテの作り方を参考にしてください。
1本作って終わってしまう
撮影した素材は、本編以外にも使い道があります。ショート動画、記事、資料、営業用の短い動画などに展開すれば、1回の撮影から得られる成果は大きく変わるでしょう。展開の方法はインタビュー動画の二次活用でまとめています。
成果の測り方 — 再生数だけで判断しない
アルファノート(ムビサク)が2026年6月に実施した「BtoB企業における動画マーケティングの実態調査」(動画マーケティングを実施しているBtoB企業の担当者500名が対象)では、動画活用で効果があったと答えた企業は60.6%でした。
一方で、最も重視しているKPI(最大3つまで回答)は「再生回数・インプレッション数」が41.6%で最多でした。「商談数・案件化数」と「受注数・売上金額」は、それぞれ21.4%にとどまっています。
株式会社Lumiiが2025年1月に実施した調査(BtoB企業で動画を活用している営業・マーケティング担当者402名が対象)でも、営業・マーケティング活動への効果について「非常に効果があった」と「やや効果があった」が合わせて51.0%だった一方で、「わからない」が37.3%ありました。
効果が見えていない企業が一定数あるのは、動画の目的と、測っている指標がずれていることが一因だと考えられます。BtoBでは、段階ごとに見る指標を分けるのがおすすめです。
- 認知の動画 — 再生回数、視聴の維持率、指名検索の数
- 比較・検討の動画 — 動画を見た人の資料請求率、問い合わせ率、ページの滞在時間
- 商談の動画 — 商談の回数、商談から受注までの期間、受注率
- 導入後の動画 — 問い合わせの件数、解約率
再生回数は、動画が見られているかを確かめる入口の指標にあたります。BtoBでは、そこからどれだけ商談や受注につながったかまで追えるように、Webサイトの計測と営業の記録をつないでおくことが大切です。
まず1本作るなら何からか
すでに営業やWebサイトで説明している内容があり、それが伝わりにくいと感じているなら、比較・検討の段階で見られる動画から始めるのがおすすめです。具体的には次のどちらかから選びます。
- 導入事例動画 — 既存の顧客に協力をお願いできるなら、最も説得力のある1本になります
- サービス紹介動画 — 営業が毎回同じ説明をしているなら、その説明を動画にします
この2つは、Webサイト、商談前のメール、展示会と置き場所が多く、作った後の使い道に困りにくい動画です。認知を広げるSNS向けの動画は、比較・検討の受け皿ができてから増やすほうが、見た人の次の行動につながりやすくなります。
よくある質問
Q1. 予算が少なくても動画マーケティングは始められますか?
始められます。最初から本数を増やすより、比較・検討の段階で使う1本に予算を集め、撮影素材を短い動画や記事に展開するほうが、限られた予算でも効果を確かめやすくなります。
Q2. YouTubeチャンネルは最初に作るべきですか?
目的によります。認知を広げたいならYouTubeやSNSは有力な置き場所ですが、継続的な投稿が必要です。まずは自社サイトや商談で使う動画を作り、その動画をYouTubeにも置くところから始めると、運用の負担を抑えられます。
Q3. 動画は社内で作るのと外注するのと、どちらがよいですか?
動画の役割で分けるのがおすすめです。会社の顔になる動画や導入事例は外注し、SNS向けの短い動画や社内向けの説明動画は社内で作る、といった分担が現実的です。
まとめ
主要ポイント
- BtoBの動画は営業の代わりに説明する資料 — 営業に会う前の検討段階で見られる
- 購買プロセスの段階ごとに置く動画を変える — 認知、比較・検討、商談、導入後
- 進め方は5ステップ — 目的、見る人、置き場所、制作、測り方
- 止まりやすいのは社内調整 — 目的の合意、出演者、確認の流れ、二次活用
- 成果は段階ごとの指標で測る — 再生回数だけで判断しない
次のステップ
- 今ある動画と営業資料を、購買プロセスの4段階に並べてみる
- 説明が足りていない段階を1つ選び、その段階の動画の目的と見る人を書き出す
- 公開前に、何を見れば成功かを決めておく
関連記事
参考ソース
- 2025年 日本の広告費(電通、2026年3月5日) — インターネット広告費と総広告費に占める割合
- 2025年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析(CARTA HOLDINGS・電通・電通デジタル・セプテーニ) — ビデオ(動画)広告費
- BtoB購買プロセス白書2025(ワンマーケティング、2025年11月11日) — 初回面談前の購買先候補の絞り込み
- BtoB企業における動画マーケティングの実態調査 2026年版(ムビサク/アルファノート) — 効果の実感と重視しているKPI
- BtoB企業の営業・マーケティングにおける動画活用の実態調査(株式会社Lumii、2025年2月4日) — 効果の実感と受注率への影響