BtoBのデジタルマーケティングは、手段の数が多い分野です。SEO、広告、SNS、資料ダウンロード、メルマガ、ウェビナー、インサイドセールスと、取り組めることはいくらでもあります。ところが、ひとつずつ手を付けていくと、どの施策が売上にどうつながっているのかが見えにくくなりがちです。
そこで役に立つのが、見込み客が自社を知ってから契約し、使い続けるまでの流れを、段階に分けて見ることです。段階ごとに目的と手段を並べてみると、自社でいま手薄な部分や、施策どうしのつなぎ目が見えてきます。
この記事は、特集「動画マーケティング活用ロードマップ」の第0回です。動画の話に入る前に、BtoBのデジタルマーケティング全体を6つの段階で整理します。動画をどこでどう使うかは、次回以降でこの地図の上に重ねていきます。
この記事でわかること
- BtoBの買い方の特徴 — 関わる人数、検討の期間、営業に会う前の情報収集
- 6つの段階の全体図 — 集客から成約のあとまでの目的と手段、効果測定の指標
- 段階ごとの手段 — 用語の意味とあわせて1つずつ
- マーケティングと営業の受け渡し — 引き継ぐ基準の決め方
- よくあるつまずき — 流れが途中で止まる5つのパターン
BtoBの買い方の3つの特徴
BtoBのマーケティングが個人向けと違うのは、買う側の進め方が違うからです。ワンマーケティングが企業の購買に関わる600名(経営者・役員、購買・契約担当者)に聞いた「BtoB購買プロセス白書2025」(2025年9月30日〜10月1日、インターネット調査)から、3つの特徴を見てみましょう。
検討に関わる人が多い
この調査では、1つの購買に関わる平均の人数は、300万円未満の価格帯で5.6人、中価格帯で14.4人、高価格帯では18.3人でした。担当者が気に入っても、上長、決裁者、情報システムや経理の担当者がそれぞれの立場で確かめます。1人を説得すれば決まる買い物ではない、という前提に立つ必要があります。
検討の期間が長い
同じ調査では、高価格帯の取引の54%が、検討から契約まで半年以上かかっていました。その間に担当者が異動したり、予算の時期がずれたりすることもあるでしょう。一度の接触で終わらせず、検討が進むまで関係を続ける仕組みが求められるのはこのためです。
営業に会う前に情報を集めている
営業担当者との初回面談の時点で、購買先が「ほぼ決まっている」と答えた人が29%、「いくつかの候補に絞り込まれている」が56%で、合わせて85%でした。普段使う情報源の上位は、購買先企業のWebサイト(38.5%)と検索エンジン(32.2%)です。
営業に会う前のWeb上での情報収集で、候補に残るかどうかの大部分が決まっていることになります。一方で、この白書は、提案の評価や見積もりの比較といった後半の段階では「営業による説明・提案」が最も重視されるとも報告しています。デジタルで候補に残り、後半は人が信頼をつくる。この役割分担が、BtoBのデジタルマーケティングの土台です。購買担当者の行動を示すほかの公開調査は、BtoB動画活用の調査データ2026でも読み比べています。
集客から成約のあとまで — 6つの段階の全体図
BtoBで見込み客が顧客になり、使い続けてくれるまでの流れは、次の6つの段階に分けて考えると整理しやすくなります。

| 段階 | 目的 | 主な手段 | 効果測定の指標 |
|---|---|---|---|
| 集客 | 自社を知らない人に見つけてもらう | 検索、Web広告、SNS、YouTube、プレスリリース | 表示回数、再生数、サイトへの流入 |
| 接点づくり | 名乗ってもらい、連絡が取れる関係にする | サービスページ、LP、資料ダウンロード、フォーム | 資料ダウンロード数、問い合わせ数、フォームの完了率 |
| コミュニケーション | 検討が進むまでやり取りを続ける | メール、電話、LINE公式アカウント、チャット | 開封とクリック、返信、面談の設定数 |
| セミナー・イベント | まとまった時間で理解を深めてもらう | ウェビナー、自社セミナー、展示会、ユーザー会 | 申込数、参加率、アンケート、参加後の面談数 |
| 商談・成約 | 比べて選んでもらう | 事前の資料送付、提案、導入事例、稟議の支援 | 商談化率、成約率、検討期間 |
| 成約のあと | 使い続けてもらい、紹介や追加につなげる | オンボーディング、FAQ、サポート、活用事例 | 利用の定着、問い合わせ件数の変化、継続率、紹介 |
段階は順番に進むとは限りません。展示会で初めて名刺を交換する人もいれば、検索で見つけてすぐに問い合わせる人もいます。それでも、自社の施策をこの6つに当てはめておけば、どの段階に手段が集中し、どの段階が空いているかが見えてくるはずです。
効果測定の指標の考え方は、動画マーケティングの効果測定でも、再生、サイト行動、商談、受注の階層に分けて整理しています。動画に限らず、段階ごとに見る数字を分けるという点は共通です。
集客と接点づくり — 見つけてもらい、名乗ってもらう
最初の2つの段階は、まだ自社を知らない人に見つけてもらい、連絡先を教えてもらうまでです。連絡先をもらえた見込み客のことをリードと呼びます。
集客の手段
- 検索(SEO) — 課題や製品の分野で検索した人に、自社の記事やページを見つけてもらう方法です。成果が出るまでに時間はかかりますが、作ったページは長く働きます
- Web広告 — 検索広告やSNS広告で、狙った条件の人に届けます。すぐに数字が出る反面、止めると流入も止まります
- SNS — LinkedIn、X(旧Twitter)、YouTubeなどで、担当者や会社の考えを発信します。すぐに問い合わせにはつながりにくく、名前を覚えてもらう役割が中心です
- YouTubeチャンネル — 解説やセミナーの動画をためていく場所で、検索との相性がよい手段です
- プレスリリース・メディア — 新サービスや調査結果を発表し、記事として取り上げてもらう方法です
接点づくりの手段
- 自社サイト・サービスページ — 来た人が、何の会社で、誰の役に立つのかを確かめる場所です
- LP(ランディングページ) — 広告やメールから来た人に、1つの行動だけをお願いするページ
- 資料ダウンロード — ホワイトペーパーやサービス資料と引き換えに、連絡先を教えてもらいます。BtoBでよく使われるリード獲得の手段です
- 問い合わせ・見積もりフォーム — 検討が進んだ人の入り口です。入力の項目が多いと、途中でやめる人が出やすくなります
- メルマガ登録 — 今すぐは検討していない人と、ゆるくつながっておくための入り口です
集客は数字が大きく見えるため、施策が集まりやすい段階です。ただ、集客の数字が増えても、接点づくりで名乗ってもらえなければ、営業が連絡できる相手は増えません。
コミュニケーション — 検討が進むまでやり取りを続ける
連絡先をもらった相手の多くは、すぐには買いません。検討の時期が来るまで、役に立つ情報を届けながら関係を続ける取り組みをナーチャリング(育成)と呼びます。
- メール — 全員に送るメルマガと、資料ダウンロードなどをきっかけに決まった順番で送るステップメールがあります。開封やクリックで、関心の高まりがわかります
- 電話(インサイドセールス) — インサイドセールスは、電話やメール、オンライン会議で見込み客とやり取りし、商談の機会をつくる担当です。訪問する営業の前段を受け持つ形が一般的です
- LINE公式アカウント — 総務省の「令和7年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」では、LINEの利用率は全年代で92.9%でした。ただし個人の利用を聞いた数字なので、BtoBで使うかどうかは、相手の業種や担当者の働き方を見て決めるのが現実的です
- チャット — サイト上のチャットで、ちょっとした質問にその場で答えます
- 営業からの個別メール — 担当者の名前で、相手の状況に合わせて送るメールです
こうしたやり取りを効率よく続けるために使われるのが、MAとCRMです。MA(マーケティングオートメーション)は、リードの情報や行動を記録し、メールの配信や点数づけを自動で行う仕組みです。CRM(顧客関係管理)は、顧客との接点や商談の経過を記録する仕組みで、営業の管理に使うSFA(営業支援システム)と一体になっている製品もあります。
セミナー・イベント — まとまった時間で理解を深めてもらう
メールや電話でのやり取りは短い接点の積み重ねです。それに対してセミナーやイベントは、30分から数時間をかけて理解を深めてもらえる、数少ない場です。
- ウェビナー — オンラインのセミナーで、ライブで配信するものと、録画を後から見てもらうものがあります。参加のハードルが低く、遠方の人も集めやすい形式です
- 自社セミナー — 会場に来てもらう形式です。参加者は少なくなりがちですが、質問や名刺交換を通じて関係が深まりやすくなります
- 展示会 — 多くの人と一度に接点をつくれる場で、集客と接点づくりの役割も兼ねます
- 会社説明会・ユーザー会 — 会社や製品を深く知ってもらう場です。ユーザー会は既存の顧客どうしをつなぐため、成約のあとの段階にも効きます
この段階で大切なのは、イベントそのものより前後の動きにあります。申込の時点で何に関心があるかを聞いておき、終わったあとはアンケートの回答に応じて連絡の仕方を変える。参加後の面談数まで数えておくと、イベントが商談にどれだけつながったかを確かめられます。
商談・成約と成約のあと — 比べて選んでもらい、続けてもらう
商談・成約
具体的な検討に入った相手には、比べて選んでもらうための材料を渡します。
- 商談前の事前送付 — 会う前に会社やサービスの概要を送っておくと、初回の商談で深い話に入れます
- 提案・プレゼン — 相手の課題に合わせた内容で、導入の効果と進め方を示します
- 導入事例 — 同じ業種や規模の企業の事例は、比較の段階で信頼されやすい材料です
- 比較検討・稟議(社内説明) — 担当者が上長や決裁者に説明するための資料を、こちらから用意しておきます
- 見積もり・契約前の不安の解消 — 導入の手間、サポート、解約の条件など、最後に気になる点に答えます
先ほどの白書でも、意思決定者は品質やコストに加えて「導入企業の満足度」や「サポート品質」を重視していると報告されています。導入事例やサポート体制の説明は、この段階の後押しになるでしょう。
成約のあと
BtoBでは、契約がゴールではありません。使い始めてもらい、続けてもらい、追加の契約や紹介につなげる段階があります。
- 導入・オンボーディング — 使い始めの手順を案内し、最初の成果が出るまで伴走します
- 操作説明・FAQ — よくある質問をまとめ、問い合わせの前に自分で解決できるようにします
- サポート — 問い合わせの窓口と、回答の早さや質を整えます
- ユーザーの活用事例・既存顧客へのお知らせ — 他社の使い方や新しい機能を届け、使い方の幅を広げてもらいます
成約のあとの顧客は、次の導入事例の協力者や、紹介の起点にもなります。6つの段階が一方通行ではなく、最後の段階が最初の段階へ戻ってくる形になっていると考えておくとよいでしょう。
マーケティングと営業の受け渡し — 引き継ぐ基準を決める
6つの段階のどこから営業が担当するかは、会社によって違います。ただ、どの会社でも決めておきたいのが、マーケティングから営業へリードを渡す基準です。

受け渡しの基準を表す言葉として、MQLとSQLがよく使われます。
- MQL(マーケティングが育てた有望なリード) — 資料のダウンロードやセミナーへの参加などから、関心が高いとマーケティングが判断したリード
- SQL(営業が商談に進めると判断したリード) — インサイドセールスや営業が話を聞き、課題や時期が合っていると判断したリード
基準を決めるときは、次の3つを書き出しておくと、部署の間で認識がずれにくくなります。
- 相手の条件 — 業種、会社の規模、役職など、自社の顧客になりやすい条件
- 行動の条件 — 料金ページを見た、事例の資料をダウンロードした、セミナーに参加したなど、関心の高まりを示す行動
- 戻す条件 — 営業が話してみて時期が合わなかったリードを、どの段階に戻して育成を続けるか
3つめの戻す条件は、見落とされがちです。営業が「今は検討していない」と判断したリードをそのままにすると、半年後に検討が始まったときには、別の会社に声をかけられているかもしれません。
よくあるつまずき — 流れが途中で止まる5つのパターン
6つの段階で見ると、うまくいかない原因の多くは、手段そのものではなく、段階のつなぎ目にあります。よく見られるパターンを5つ挙げます。
- 集客ばかり増やして、育成がない — 流入や資料ダウンロードは増えても、その後に届ける情報がなく、検討の時期に思い出してもらえない
- 資料ダウンロードのあとに連絡しない — 連絡先をもらったまま、数週間なにもしない。関心が高いのは、ダウンロードの直後です
- セミナーが単発で終わる — 参加者の数で満足し、参加後の連絡やアンケートの活用までつながっていない
- 営業への受け渡しの基準がない — マーケティングは「渡した」、営業は「質が低い」と言い合い、どちらも数字を改善できない
- 成約のあとが手薄 — 新規の獲得に予算が集中し、使い始めの支援が足りずに解約や不満につながる
どれも、段階ごとの数字を並べると見つけやすくなります。集客から成約までの数字を一覧にし、前の段階から次の段階へ進んだ割合がいちばん低いところを探してみてください。そこが、いま手を入れる優先度の高い段階です。
自社の流れを点検する手順
ここまでの内容を、自社に当てはめる手順にまとめます。
- いま行っている施策を書き出す — 部署ごとに、広告、記事、メール、セミナー、営業資料などを一覧にする
- 6つの段階に振り分ける — 1つの施策が複数の段階にまたがってもよい
- 段階ごとの数字をそろえる — 上の表の「効果測定の指標」のうち、すでに取れている数字を集める
- 空いている段階と、落ちている段階を探す — 施策がない段階と、次へ進む割合が低い段階に印をつける
- 手を入れる段階を1つ選ぶ — 一度にすべてを直そうとせず、いちばん詰まっている段階から始める
数字がそろわない段階があること自体も、ひとつの発見です。どこで何を記録するかを決めるところから始めましょう。
次回からは、この6つの段階の上に、動画をどこでどう使うかを重ねていきます。動画マーケティングの進め方そのものは、BtoBの動画マーケティングの進め方で全体を解説しています。
よくある質問
Q1. 6つの段階すべてに、最初から施策をそろえる必要がありますか?
その必要はありません。人手や予算が限られているなら、いちばん詰まっている段階から手を入れるほうが成果につながりやすくなります。ただし、集客だけを増やす場合は、連絡先をもらったあとの対応を先に決めておくと、せっかくのリードを取りこぼさずに済みます。
Q2. MAやCRMを入れないと、この流れは作れませんか?
最初は表計算ソフトでも始められます。リードの一覧、最後に接点を持った日、次に連絡する日を記録するだけでも、資料ダウンロードのあとの放置は防げます。扱うリードの数が増え、手作業では追いきれなくなった時点で導入を考えるのが現実的です。
Q3. インサイドセールスは必ず置くべきですか?
必須ではありません。リードの数が少ないうちは、営業が直接連絡しても回ります。リードが増えて営業が商談に集中できなくなったときや、検討の時期がまだ先のリードとの関係を続けたいときに、インサイドセールスを置く意味が大きくなります。
まとめ
主要ポイント
- BtoBの買い方は、関わる人が多く、期間が長く、営業に会う前に候補が絞られる
- 流れは6つの段階で見る — 集客、接点づくり、コミュニケーション、セミナー・イベント、商談・成約、成約のあと
- 段階ごとに目的、手段、効果測定の指標を分ける — 集客の数字だけで判断しない
- マーケティングと営業の受け渡しの基準を決める — 相手の条件、行動の条件、戻す条件
- つまずきは段階のつなぎ目に出る — 次へ進む割合がいちばん低い段階から手を入れる
次のステップ
- 自社の施策を6つの段階に振り分けた一覧を作る
- 段階ごとに、すでに取れている数字と取れていない数字を分ける
- マーケティングと営業で、リードを渡す基準と戻す基準を話し合う
次回の第1回では、この6つの段階の上に動画の役割を重ね、どの段階でどんな動画が効くのかを一覧にします。動画マーケティングの計画づくりに使える資料は、ホワイトペーパー一覧からダウンロードできます。
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参考ソース
- BtoB購買プロセス白書2025(ワンマーケティング、2025年11月11日) — 初回面談前の候補の絞り込み、普段利用する情報源、価格帯別の関与人数、検討から契約までの期間、後半の段階で重視する情報源、意思決定者が重視する評価項目、調査概要
- 令和7年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書の公表(総務省、2026年6月26日) — LINEの利用率、調査対象、調査期間