製造業のマーケティングや営業企画の担当者からは「自社の技術の強みが、カタログや展示会のパネルでは伝わりきらない」「工場を撮影したいが、どこまで映してよいのか社内で判断できない」という声をよく聞きます。加工の精度や設備の動き、品質を守るための工程は、文章や写真より動画のほうが伝えやすい内容です。
一方で、製造業の動画には、ほかの業界とは違う前提がいくつかあります。製品を選ぶのが設計や生産技術の技術者であること、展示会が商談の入口になりやすいこと、そして工場の中には撮影できない場所や、取引先から預かった情報が多いことです。
この記事では、製造業のマーケティング、営業企画、広報の担当者に向けて、購買にかかわる人ごとに見せるもの、技術を見せる動画の種類、展示会とYouTubeでの使い方、工場で撮影する前に確かめること、技術者に出演してもらうときの準備の順に整理します。動画マーケティング全体の進め方は、BtoBの動画マーケティングの進め方にまとめています。
この記事でわかること
- 製造業の動画マーケティングの前提 — ほかの業界と違う3つの事情
- 購買にかかわる人ごとに見せるもの — 技術者、品質保証、購買、経営層
- 技術を見せる動画の種類 — 実演、評価試験、工程、技術解説
- 展示会とYouTubeでの使い方 — 公開と限定公開の使い分け
- 工場撮影の許可と機密の確認 — 社内、取引先、安全と衛生
- 技術者に出演してもらうときの準備 — 言葉と数値の扱い
製造業の動画マーケティングの前提 — ほかの業界と違う3つの事情
最初に、製造業ならではの事情を3つ整理しておきます。動画の企画も撮影の段取りも、この3つから決まってくる部分が多いためです。
製品を選ぶのは技術者
部品や材料、設備を選ぶとき、最初に候補を探して比べるのは、発注側の設計者や生産技術の担当者であることが多いものです。技術者は、仕様や精度、試験の条件といった具体的な情報を求めています。雰囲気を伝えるイメージ映像だけでは、比較の材料になりにくいでしょう。
展示会が商談の入口になりやすい
製造業では、業界ごとの展示会で新しい取引先と出会い、そこから試作や見積もりに進む流れがよくあります。動画も、展示会の前、会期中、会期後の流れの中で使い道を考えると、無理なく活用できます。
工場には撮れないものが多い
工場には、独自の製法や設備の配置、取引先の製品や図面など、外に出せない情報が集まっています。撮影できる場所と内容を先に決めないと、撮ったあとで使えない映像が増えてしまいます。
購買にかかわる人ごとに見せるもの
製造業の取引では、技術者のほかにも、品質保証や購買、経営層など複数の人が判断にかかわります。それぞれが知りたいことは違うため、1本の動画ですべてを伝えようとせず、見る人ごとに内容を分けるのが基本です。
| 見る人 | 知りたいこと | 向いている動画 |
|---|---|---|
| 設計・開発の技術者 | 仕様、精度、できる加工 | 実演、技術解説 |
| 生産技術・品質保証 | 工程の管理、検査の方法 | 工程の紹介、評価試験 |
| 購買部門 | 納期、供給の体制、対応の範囲 | 工場と体制の紹介 |
| 経営層 | 会社の方針、設備投資の考え方 | 代表のメッセージ |

最初の1本としては、比べる段階で最も多く見られる技術者向けの動画から作るのがおすすめです。品質保証や購買向けの動画は、商談が進んでから担当者が社内で共有する場面で役に立ちます。購買段階ごとの動画の選び方は、BtoBで使う動画の種類と選び方でも整理しています。
技術を見せる動画の種類
技術者に向けた動画では、何ができるかを言葉で説明するより、実際に動いている様子と、その結果を見せるほうが伝わります。製造業でよく作られるのは、次の4つです。
加工や製品の実演
加工の様子や、製品が動く様子をそのまま見せる動画です。どんな材料を、どんな設備で、どの程度の時間で加工しているかが分かると、技術者は自社の用途に合うかどうかを判断しやすくなります。手元や加工部分の寄りの映像と、設備全体が分かる引きの映像を組み合わせるのが基本です。
評価試験の動画
耐久性や強度などの試験の様子と、その結果を見せる動画です。試験の条件を画面やナレーションで必ず添えることが大切です。条件のない数字は、どの用途でも同じ結果が出ると受け取られるおそれがあります。
工程と品質管理の紹介
受け入れの検査から加工、検査、出荷までの流れを見せる動画です。品質保証の担当者が取引先を評価するときの参考になります。工場見学に来てもらう前に見てもらうと、当日の説明を短くできるでしょう。
技術者が話す技術解説
自社の技術者が、加工方法の特徴や、よくある不具合とその対策を解説する動画です。自社製品の宣伝に寄せすぎず、技術者が知りたい一般的な知識を中心にすると、検索から見られる機会も増えます。
展示会と営業での使い方
展示会を中心に商談が始まる製造業では、動画を会期の前後まで含めて使うと効果的です。
- 会期前 — 出展の案内のメールやWebサイトで、展示する技術の短い動画を見せ、来場の目的を作ってもらう
- 会期中 — ブースのモニターで、実物を持ち込めない設備や加工の様子を流す
- 会期後 — 名刺交換をした相手に、ブースで話した技術の詳しい動画を送る
ブースで流す動画の尺や置き方は、展示会で動画を使う方法で詳しく扱っています。会期後の商談で送る動画の構成は、BtoBの営業動画の作り方を参考にしてください。
展示会で流す動画を撮るときは、会期後に送る長めの動画も同じ撮影でまとめて撮っておくと、費用と手間を抑えられます。
製造業のYouTube活用 — 公開と限定公開の使い分け
技術解説や実演の動画は、YouTubeに置くと、加工方法や材料の名前で検索した技術者に見つけてもらえる可能性があります。チャンネルを作るときに決めておきたいのは、動画ごとの公開の範囲です。
YouTubeヘルプによると、限定公開に設定した動画は、リンクを知っているユーザーだけが見ることができ、チャンネルの動画の一覧や検索結果には表示されません。ただし、リンクを知っているユーザーは、その動画をさらに他の人と共有できるとも書かれています。
- 公開 — 技術解説、一般的な加工の実演、会社紹介など、誰に見られてもよい動画
- 限定公開 — 商談相手に送る詳しい説明など、検索に出す必要はないが、転送されても困らない動画
- YouTubeに置かない — 取引先ごとの提案や、秘密保持の契約に基づく情報を含む動画。社内の共有の仕組みや、アクセスを制限できる方法で渡す
限定公開は、秘密を守るための設定ではないと考えておくと判断を誤りにくくなります。長い技術解説には、YouTubeのチャプター機能で区切りを付けると、技術者が必要な部分だけを見られるので便利です。チャンネルの設計はBtoB企業のYouTube運用、自社サイトに動画を置くときの検索対策は自社サイトの動画SEOで扱っています。
工場で撮影する前に確かめること
工場の撮影では、撮影の許可を誰から得るか、何を映さないかを、撮影の前に決めておくことが欠かせません。確認の相手は、社内、取引先、現場の安全と衛生の大きく3つに分かれます。

社内の許可と、公開してよい情報の判断
工場長や製造の責任者だけでなく、品質保証、知的財産や情報管理の担当者にも撮影の目的と範囲を伝えておきます。
特に気をつけたいのが、独自の製法や設備の工夫です。不正競争防止法では、営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定めています。動画で公開した情報は、公然と知られていないという条件を満たさなくなるおそれがあります。どこまで見せるかは、撮影の前に社内の判断として決めておくのが安全です。
取引先の機密
製造業の工場には、取引先から預かった図面や試作品、取引先のブランドで出荷する製品があります。秘密保持の契約で、工場内の撮影や公開が制限されている場合もあるでしょう。取引先の製品や図面、社名が入った箱やラベルは、映さないことを基本にします。どうしても映したい場合は、営業担当を通じて取引先の了承を得てから撮影します。
撮影禁止エリアと映り込み
撮影の前に工場の図面で、撮影してよい場所と、立ち入らない場所を決めます。撮影してよい場所でも、次のようなものが映り込みやすいので注意が必要です。
- 生産計画や不良の件数を書いたボード、掲示物
- 設備の操作画面や、パソコンのモニター
- 開発中の製品や、試作品
- 窓の外に見える隣の建物や、ほかの会社の製品
安全と衛生
撮影する人も、工場に入る一人として現場のルールに従います。ヘルメットや保護めがねなどの保護具、通ってよい通路、稼働中の設備に近づかない範囲を、撮影の前に確認しておきます。クリーンルームや食品の工場では、着衣や機材の持ち込みに決まりがあるため、撮影機材を事前に清掃する、持ち込める機材を絞るといった準備も必要です。ドローンで工場の外観を撮る場合は、国土交通省が案内している航空法の飛行ルールに沿って、必要な手続きを確かめます。
人の映り込みと出演の了承
出演する従業員には、撮影の目的と公開する場所を説明し、了承を得ておきます。作業中の従業員が背景に映る場合も同様です。権利の扱いは、社員が出演する動画の肖像権と著作権で詳しく扱っています。
撮影当日と編集で確かめること
撮影当日は、工場の案内役を1人決め、撮影する人が単独で動かないようにします。撮影してよい場所と撮るカットの一覧に加えて、映さないものの一覧も持っていくと、その場で判断しやすくなります。撮影のために設備を止めたり、作業の順番を変えてもらったりする場合は、生産の計画に影響しないよう、製造の責任者と事前に調整しておきましょう。当日の段取りは動画撮影当日のチェックリストが参考になります。
編集のあとは、公開の前に次の順番で確認します。
- 製造と品質保証の担当者 — 工程や数値の説明が正しいか、映ってはいけないものがないか
- 知的財産や情報管理の担当者 — 製法や設備の工夫が見えすぎていないか
- 営業の担当者 — 取引先の製品や社名が映っていないか
- 最終的に判断する人 — 全体を通して公開してよいか
画面の隅に映った掲示物や、モニターの表示まで、全カットをコマ送りで確かめるのが確実です。
技術者に出演してもらうときの準備
技術解説の動画では、自社の技術者に出演してもらうことが多くなります。見る人も技術者なので、出演者には普段の業務で使っている言葉で話してもらうのが基本です。専門用語を無理に言い換えると、かえって伝わりにくくなることがあります。
数値の扱いには注意が必要です。精度や耐久性などの数値は、どの条件で得られたものかを必ず添えてもらいます。条件を省いた数値や「どんな材料でも加工できます」のような言い切りは、性能を保証していると受け取られかねません。台本の段階で、言ってよい数値と表現を品質保証の担当者と決めておくと安心です。
出演者には、全文を覚えてもらうより、話してほしい要点を箇条書きで渡すほうが自然に話せます。台本の作り方は企業動画の台本の書き方で解説しています。取引先に出演してもらう導入事例の動画については、導入事例動画の作り方を5ステップで解説を参考にしてください。
よくある質問
Q1. 工場の中をほとんど撮影できない場合、どんな動画が作れますか?
撮影できる場所が限られていても、作れる動画はあります。会議室や試作室で技術者が話す技術解説、展示用の製品やサンプルを使った実演、図やアニメーションで工程を説明する動画などです。工場の中の映像がなくても、技術者が知りたい情報は伝えられます。
Q2. 技術の詳しい内容を公開すると、競合に知られてしまいませんか?
その心配はもっともです。公開する動画では、何ができるか、どんな結果が出るかを中心にし、どうやって実現しているかの核心には触れないのが基本です。どこまで見せるかは、知的財産や情報管理の担当者と撮影前に決めておきましょう。
Q3. 最初の1本は何から作るのがよいですか?
展示会に出展しているなら、ブースで流す実演の動画と、会期後に送る詳しい動画を同じ撮影で作る方法がおすすめです。展示会に出ていない場合は、問い合わせの多い加工や製品について、技術者が話す技術解説から始めると、営業の場面でもWebサイトでも使えます。
まとめ
主要ポイント
- 製造業には3つの前提がある — 技術者が購買にかかわる、展示会が商談の入口、工場に撮れないものが多い
- 見る人ごとに動画を分ける — 技術者、品質保証、購買、経営層で知りたいことは違う
- 技術は実際の動きと結果で見せる — 実演、評価試験、工程の紹介、技術解説
- 限定公開は秘密を守る設定ではない — 機密を含む動画はYouTubeに置かない
- 撮影の前に許可と映さないものを決める — 社内、取引先、安全と衛生
- 数値には条件を添える — 言ってよい数値と表現を品質保証の担当者と決める
次のステップ
- 技術者からよく受ける質問を書き出し、動画で答えられるものを選ぶ
- 撮影したい場所を工場の図面に書き込み、社内の許可を得る相手を確認する
- 次の展示会の日程から逆算して、撮影と完成の時期を決める
製造業の動画の企画や撮影の設計については、デジタルメディア戦略事業でもご相談を承っています。
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参考ソース
- 不正競争防止法(e-Gov法令検索) — 第2条第6項の営業秘密の定義
- 動画のプライバシー設定を変更する(YouTubeヘルプ) — 限定公開の動画が表示される範囲と共有
- 動画のチャプター(YouTubeヘルプ) — 長い動画を区切るチャプター機能
- 無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール(国土交通省) — ドローンで撮影するときの飛行ルール
