企業の動画は、音を出さずに見られる場面が少なくありません。SNSのフィード、Webサイトで自動再生される動画、展示会のモニター、移動中のスマートフォン。どれも、音が聞こえなくても内容が伝わるかどうかで、最後まで見てもらえるかが変わってくるはずです。
動画を発注するときによく聞かれるのが、「字幕は付けたほうがよいのか」「テロップと字幕は同じものなのか」「YouTubeの自動字幕で足りるのか」といった質問です。見積もりの段階で決めておかないと、納品の直前に字幕を足すことになり、日程と費用が膨らむこともあります。
この記事では、企業動画の字幕とテロップについて、発注時によく出る質問に答える形で整理します。アクセシビリティの基準は、WCAGとJIS X 8341-3など、公式の文書で確認できた範囲に絞りました。
この記事でわかること
- 字幕とテロップの違い — 役割と、画面での見え方
- 字幕を付けるべき場面 — 音なしで見られる場所と、聞き取りにくい内容
- アクセシビリティの基準 — WCAGとJIS X 8341-3で確認できること
- 字幕の形式の選び方 — 映像に焼き込むか、字幕ファイルを付けるか
- 文字量の目安と、自動字幕の確認点 — 読みやすさを保つための考え方
- 発注時に決めておくこと — 見積もりの前にそろえる項目
字幕とテロップは何が違うのか
どちらも画面に出る文字ですが、役割が異なります。
- 字幕 — 話している言葉を、ほぼそのまま文字にしたもの。音が聞こえない人や、音を出せない場面でも内容が分かるようにするのが目的です
- テロップ — 編集で入れる文字のうち、要点、見出し、数字、名前などを短く示すもの。話の内容を強調したり、整理したりするために使います
アクセシビリティの指針であるWCAG(Web Content Accessibility Guidelines)で、字幕にあたるのは「キャプション」という用語です。WCAG 2.2の日本語訳を見ると、キャプションは会話の内容だけでなく、効果音、音楽、笑い声、話者が誰かなど、内容の理解に必要な会話以外の音の情報も伝えるもの、と定義されています。訳注には、日本ではキャプションを一般に字幕と呼ぶことが多い、という補足もあります。
つまり、アクセシビリティの観点での字幕は、話した言葉に加えて、必要な音の情報まで文字にしたものです。一方のテロップは要点を絞って見せるもので、テロップだけでは話の全部は伝わりません。
| 項目 | 字幕 | テロップ |
|---|---|---|
| 中身 | 話した言葉と必要な音の情報 | 要点、見出し、数字、名前 |
| 量 | 話した分だけ | 1画面に1つの要点 |
| 主な目的 | 音がなくても内容が分かる | 内容を強調し、整理する |
| 表示 | 消せる形式と消せない形式がある | 映像に入れるのが一般的 |
台本の段階でナレーションとテロップの言葉を分ける考え方は、企業動画の台本の書き方で紹介しています。
どんな場面で字幕を付けるべきか
字幕を付けるかどうかは、動画を置く場所と、見る人の状況で考えます。次のどれかに当てはまる動画は、字幕を付ける前提で見積もりを取るのがおすすめです。

音を出さずに見られる場所に置く
SNSのフィードでは、音を消したまま流し見する人が多くいます。Webサイトでも、ページを開いたときに動画を自動で流すなら、音なしが前提です。Chromeの自動再生ポリシーでは、ミュートされた自動再生は常に許可される一方、音声付きの自動再生は、利用者がそのサイトをクリックやタップで操作した場合などに限られています。
展示会のブースや受付のモニターも、周りの音で聞き取りにくく、音を出せないこともある場所です。こうした場所に置く動画は、音がなくても筋が追えるかを基準に、字幕とテロップを設計します。
聞き取りにくい内容が多い
製品名、専門用語、数字、英字の略語が続く動画は、音が聞こえていても聞き取りにくくなります。インタビュー動画のように、出演者が自然な話し言葉で話す場合も、字幕があると内容を追いやすくなるはずです。
聴覚に障害のある人や、日本語以外の話者にも届けたい
採用動画、会社紹介、株主や取引先に向けた動画は、見る人を選べません。聴覚に障害のある人も見る前提で、字幕を付けておくと安心です。海外の取引先に見せる場合は、英語など他の言語の字幕も検討しましょう。
アクセシビリティの基準では何が求められているか
字幕について、公式の文書で確認できる主な基準は次のとおりです。
WCAGの達成基準
WCAG 2.2は、W3Cが2024年12月12日に勧告した指針です。時間の流れがあるメディアについて、次のような達成基準があります(レベルAが最低限で、AA、AAAの順に高くなります)。
- 達成基準 1.2.2 キャプション(収録済み) — レベルA。収録済みの動画に含まれるすべての音声に、キャプションを付ける
- 達成基準 1.2.4 キャプション(ライブ) — レベルAA。ライブ配信の音声に、キャプションを付ける
- 達成基準 1.2.3と1.2.5 音声解説 — 映像だけで伝えている情報を、音声による説明や、文字の代替で補う
収録済みの企業動画に字幕を付けることは、WCAGでは最も基本的なレベルAに含まれています。映像だけで伝えている情報、たとえばナレーションのない製品の操作画面などは、音声解説や文字の説明で補う考え方も示されています。
JIS X 8341-3(2016年版)
日本の規格であるJIS X 8341-3は、ウェブコンテンツのアクセシビリティの品質基準です。情報通信アクセス協議会とウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)による解説では、2016年の改正でWCAG 2.0と一致する規格になったと説明されています。WCAG 2.0にも、キャプションに関する1.2.2と1.2.4の達成基準があります。
障害者差別解消法の合理的配慮
内閣府のリーフレットによると、2021年の障害者差別解消法の改正で、事業者による合理的配慮の提供が義務になり、2024年4月1日に施行されました。障害のある人から対応を求められたとき、負担が重すぎない範囲で対応することが求められます。
この法律は、すべての動画に字幕を付けることを定めたものではありません。ただ、字幕を最初から付けておけば、問い合わせを受けてから対応するより、多くの人に同じ情報を届けやすくなります。自社のWebサイトがどのレベルを目指すかは、Webサイトの担当部署と相談して決めておくのがよいでしょう。
字幕は映像に焼き込むか、字幕ファイルで付けるか
字幕の付け方は、大きく2つに分かれます。
- 映像に焼き込む字幕 — 映像の一部として文字を入れる方法。WCAGではオープンキャプションと呼ばれ、見る人が消すことはできません
- 字幕ファイル — 映像とは別のファイルで字幕を用意し、プレーヤーで表示する方法。WCAGではクローズドキャプションと呼ばれ、見る人が表示と非表示を切り替えられます
YouTubeヘルプによると、YouTubeでは字幕ファイルをアップロードして字幕を付けられます。初めて作る場合は、SubRip(.srt)かSubViewer(.sbv)の形式が案内されています。どちらも、表示する文字と、表示を始める時間と終わる時間だけを書く簡単な形式です。
置き場所ごとの選び方をまとめると、次の表のとおりです。
| 置き場所 | おすすめの形式 | 理由 |
|---|---|---|
| SNSのフィード | 焼き込み | 字幕をオンにするとは限らない |
| YouTube | 字幕ファイル | 見る人が表示を選べる |
| 自社サイト | 字幕ファイルか焼き込み | プレーヤーの対応で決める |
| 展示会や受付 | 焼き込み | プレーヤーの操作ができない |
1本の動画を複数の場所に置く場合は、要点を示すテロップは映像に入れ、話した言葉の字幕は字幕ファイルで付ける組み合わせが扱いやすいと考えています。SNS向けに縦型へ作り直すときは、字幕を焼き込んだ版を別に書き出します。画面の向きの決め方は、動画の縦横比の選び方にまとめました。
字幕とテロップの文字量はどれくらいが目安か
字幕の文字量に、公式に決められた数字はありません。ここでは、制作の現場で使っている判断の基準を紹介します。
字幕は1画面2行まで、意味の切れ目で改行する
字幕は、1画面に2行までに収めるのが基本です。3行以上になると、映像を見る余裕がなくなります。改行は、文字数ではなく意味の切れ目で入れます。
- 読みにくい改行 — 「このサービスで業務の時/間が減ります」
- 読みやすい改行 — 「このサービスで/業務の時間が減ります」
表示している時間で読み切れるかを、再生して確かめる
話す速さに合わせて字幕を出すと、早口の部分では読み切れないことがあります。字幕を付けたら、必ず通して再生し、字幕だけを読んで内容が追えるかを確かめましょう。読み切れない箇所は、言葉を短くまとめるか、表示する時間を少し延ばします。
話した言葉を一字一句そのまま字幕にする必要はありません。「えー」「あの」などのつなぎの言葉や、言い直しは省いてかまいません。ただし、意味が変わるほど言葉を削ると、話している内容と字幕が食い違ってしまいます。
テロップは1画面に1つの要点
テロップは、1画面に1つの要点を短く示します。話した言葉をそのまま並べるのではなく、「転記と確認の手間」のように名詞で終わる短い言葉にすると、一瞬で読めます。
文字の色と位置
文字は、背景がどんな色でも読めるよう、縁取りや半透明の帯を付けます。WCAGでは、ウェブページの文字と背景のコントラスト比を4.5対1以上にする基準(達成基準 1.4.3)を示しています。動画の字幕も、この考え方を参考に、背景と文字の明るさの差を十分に取っておくと安心です。
縦型の動画では、画面の下や右側に、アプリのボタンや説明文が重なることがあります。字幕とテロップは、画面の中央寄りに置くのがおすすめです。
自動字幕を使うときに確認すること
YouTubeには、音声認識で自動的に字幕を作る自動字幕起こしの機能があり、日本語でも使えます。手間を減らせる便利な機能ですが、YouTubeヘルプでは、機械学習で作られるため品質にばらつきが出る可能性があるとして、専門サービスを使った字幕の作成が勧められています。発音、アクセント、方言、雑音によって正しく表示されないことがあるため、内容を必ず確認して直すように、との案内です。
同じヘルプでは、自動字幕が作られない原因として、音質が悪い、冒頭の無音が長い、複数の人が同時に話しているといった点が挙げられています。インタビューや座談会の動画は、撮影の段階で音声をきれいに録っておくことが、自動字幕の精度にも関わってくるでしょう。

自動字幕を使う場合は、次の順番で確認すると漏れが減ります。
- 固有名詞と数字 — 社名、製品名、人名、金額、日付。誤りがあると信頼に関わる部分なので、最初に確かめます
- 同じ音の言葉と話者 — 「構成と校正」のように同じ音の言葉の変換と、誰が話しているかが分かるか
- 区切りと表示時間 — 意味の切れ目で区切られているか、読み切れる長さで表示されているか
- 会話以外の音 — 内容の理解に必要な音(拍手、効果音など)があれば補う
- 通して再生 — 字幕だけを読んで、内容が追えるか
YouTubeヘルプでは、手動で字幕を入力するときに、[拍手]のような文字を加えると、何が起きているかが伝わると案内されています。WCAGのキャプションの定義と同じ考え方です。
確認には、社名や製品名の正式な表記を知っている社内の担当者に入ってもらうのが確実です。台本やナレーション原稿があるなら、それを文字起こしの元にすると、直す量を減らせます。
発注するときに決めておくこと
字幕は、あとから足すと日程にも費用にも響く作業です。見積もりを取る前に、次の項目を決めておきましょう。
- 字幕を付けるか — 置き場所と見る人から判断する
- 形式 — 焼き込みか、字幕ファイルか、両方か
- 範囲 — 話した言葉の全文か、要点のテロップだけか
- 言語 — 日本語だけか、英語など他の言語も付けるか
- 用語の一覧 — 社名、製品名、専門用語の正式な表記と読み方
- 確認する人 — 字幕の誤りを誰が、いつ確かめるか
全文の字幕を付けるか、要点のテロップだけにするかで、編集の作業量は変わります。見積もりのどの項目に字幕が含まれているかは、動画制作の見積もりの読み方を参考に確かめてください。
ウェビナーや会社説明会のように、長い動画をあとから切り出して使う予定があるなら、文字起こしを最初に作っておくと便利です。切り出す箇所を選ぶ材料になり、字幕の元にもなります。録画の使い回し方はウェビナー動画の二次活用で紹介しています。動画を目的に合わせて配置する全体の考え方は、BtoBの動画マーケティングの進め方にまとめました。
よくある質問
Q1. テロップを多めに入れれば、字幕は付けなくてもよいですか?
置き場所によります。SNSのショート動画のように、話した内容をほぼすべてテロップで入れている場合は、それが字幕の役割を果たします。一方、要点だけのテロップでは、話の全部は伝わりません。音を出せない人にも内容を届けたい動画は、テロップとは別に字幕を付けるのがおすすめです。
Q2. 英語の字幕は、自動翻訳で作ってもよいですか?
社内向けの参考としてなら便利ですが、社外に公開する動画では、翻訳の内容を英語の分かる人に確認してもらいましょう。製品名や業界の用語は、自動翻訳で意味が変わってしまうことがあります。
Q3. すでに公開している動画にも、あとから字幕を付けられますか?
YouTubeに公開している動画なら、YouTube Studioから字幕ファイルをアップロードしたり、字幕を入力したりして、あとから追加できます。焼き込みの字幕を入れる場合は、編集データから書き出し直す必要があるため、元の編集データが残っているかを制作会社に確認してください。
まとめ
主要ポイント
- 字幕は話した言葉、テロップは要点 — WCAGのキャプションは、会話以外の必要な音の情報も含む
- 音なしで見られる場所には字幕を前提にする — SNS、自動再生、展示会のモニター
- WCAGでは収録済み動画の字幕はレベルA — 2016年版のJIS X 8341-3はWCAG 2.0の一致規格
- 形式は置き場所で選ぶ — SNSは焼き込み、YouTubeは字幕ファイルが扱いやすい
- 字幕は1画面2行まで、テロップは1つの要点 — 再生して読み切れるかを確かめる
- 自動字幕は必ず確認して直す — 固有名詞と数字から確かめる
次のステップ
- 作る予定の動画を置く場所を書き出し、音なしで見られる場所があるか確かめる
- 社名、製品名、専門用語の正式な表記と読み方を一覧にする
- 字幕の形式と範囲、確認する人を決めてから見積もりを取る
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参考ソース
- Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.2 日本語訳(ウェブアクセシビリティ基盤委員会) — 達成基準 1.2.2、1.2.3、1.2.4、1.2.5、1.4.3と、キャプションの定義
- Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.2(W3C勧告、2024年12月12日) — WCAG 2.2の正式版(英語)
- JIS X 8341-3(2016年版)解説(情報通信アクセス協議会、ウェブアクセシビリティ基盤委員会) — JIS X 8341-3とWCAG 2.0の関係
- リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されました」(内閣府) — 事業者による合理的配慮の提供の義務化
- Chrome の自動再生ポリシー(Chrome for Developers) — ミュートされた自動再生と音声付きの自動再生の条件
- 自動字幕起こし機能を使用する(YouTubeヘルプ) — 自動字幕の品質、確認と編集、生成されない原因
- 字幕を追加する(YouTubeヘルプ) — 字幕ファイルのアップロード、手動入力、会話以外の音の書き方
- サポートされる字幕ファイル(YouTubeヘルプ) — SubRip(.srt)、SubViewer(.sbv)などの形式